目次
土木構造物の「トレーサビリティ」
魚本 健人
論説委員
芝浦工業大学工学部土木工学科教授
昨今では、内部告発などを通じ、我国の建物、食品をはじめとする様々な製品の誇 大表示や偽装問題がマスコミに取り上げられ、その対応の拙さにあっけに取られるこ ともしばしば見られるようになった。多くの場合、商品のイメージをうたった文句や、 材料・品質などの表示が実際と異なっていて、意図的な偽装といわれてもしかたがな いといえよう。製造者も商品とその表示が乖離していることを知っていたものの、消 費者に商品が受け入れられていることから、あえて自ら公表しなかったと釈明してい る場合も多い。ただし、問題なのはこれらの偽装問題を自ら公表したのではなく、マ スコミにその「非」を報道されて初めてその「非」を認めたものが多く、その後どの ように対処するのかを具体的に釈明できていないことが多いことである。
このような不正問題は土木・建築分野においても同様に発生しており、種々の問題 がマスコミに報じられている。衝撃的な偽装問題としては意図的に計算条件等を変更 して設計を行った「姉歯問題」が挙げられよう。その他にもこの5 年間で報道されて いる例では、レディーミクストコンクリートへの不法加水問題(2003)、落橋防止装 置のアンカーボルト施工不良問題(2003)、ホロースラブ桁の内部型枠の品質問題 (2007)などがある。いずれの問題も“巷でのうわさ”では聞いたことがあっても、 マスコミの報道がなされて初めて詳細が明らかにされている。
食品などは「食の安全性」をアピールするためにいつ、どこで、どのようにして生 産・製造されたものかなどの「トレーサビリティ」が重要視されており、これを逆手 にとった不正などが問題となった。しかし、50 年から100 年以上も使用される土木構 造物では、トレーサビリティそのものの重要性が意識されていないように思われる。 構造物を調査する目的で既存構造物を調べても「この構造物は○○年に○○?が設 計し、○○?が○○年から○○年にかけて建設したもので、設計の責任技術者は○○ 氏、施工の責任技術者は○○氏で検査責任者は○○氏である。」とか「この構造物に使 用した鋼材、セメント、砂、砂利、鉄筋は○○年に製造された○○産で○○?が○○ の配合で製造・納入したものである。」などという詳細な情報は殆ど手に入らない。結 果として、アルカリ骨材反応のように何年か後に問題が生じた際に「なぜこのような 問題が生じたのか」を明らかにし、再発防止を行おうとしてもはなはだ難しいことに なる。戦後から今日まで大量の構造物が建設されたが、国民の安全を保障するために もこれからは構造物の維持管理業務は膨大なものになると考えられ、トレーサビリテ ィに欠ける場合には、問題の所在や解明がより遅れることになると予想される。
維持管理すべき構造物のトレーサビリティを確保するためには、種々の方法が考え られる。しかし、長期的にみて望ましい方法は出来上がった構造物の諸条件を一元的 に管理する国立建設資料館のような機関を設け、構造物が取り壊されるまでの期間、 全ての構造物の設計図書(設計条件、設計計算書、設計図面等)や施工管理図書(施 工方法、使用材料等)を管理する方法である。現在では、国が建設した構造物であっ ても構造物の管理責任機関が都道府県や市町村に変更されてしまうと、対象構造物の 詳細な情報が失われる場合があるが、このような機関があれば情報の喪失を防止する ことにも役立つと考えられる。このような業務の一部を土木学会が担うことも考えら れるが、このような機関の設立が困難な場合には、構造物そのものにこれらの情報を 埋め込むことも考えられる。これは土木学会のコンクリート標準示方書にも記載され ているように、構造物の名盤などの裏に重要な情報を記録した“タイムカプセル”の ようなマイクロチップ等を埋め込み、いつでも容易に利用できるようにしておく方法 である。このような方法をコンクリート二次製品に利用している例があるが、構造物 全体にまで拡張していくことは重要である。
一方、科学技術的には既に何十年も前に建設された既設構造物の材料等をきちんと 分析できる手法の開発も大切である。交通事故のガラスの破片からどこで製造された どの車種のものかを容易に判定できる今日、簡単な分析で構造物に使用された鋼材、 セメント等がいつ、どこで製造されたものかなどを明らかにする方法の開発も重要で ある。手法としては“マルチスペクトル法”(電磁波等で得られた種々の周波数の分析 値から推定する方法)や蛍光X 線法などが参考となろう。他にも種々の技術の利用が 考えられるが、土木構造物の「トレーサビリティ」を可能ならしめる各種の技術開発 に期待したい。
講演題目「誰がこれを造ったのか」
経済の諸活動や国民の生活を支えている社会資本(インフラストラクチャー)については,これまでも国民にその存在と恩恵が意識されてきたとは言い難いが,最近では恩恵が意識されるどころかむしろ無駄の代名詞のように扱われ,批判の嵐にさらされている.さらに,それを整備する官公庁等の組織や,施工を担当する建設産業など,土木界全体に対する社会の評価も,著しく低いものとなっている.
土木に対する国民の理解が得られない一つの要因として,それぞれの道路や橋や港湾・空港,ダムや下水道,公園など,身近な構造物でありながら,誰が造ったのか,造った人の存在を感じさせないことがあるのではないかと考えられる.国民からはその区別が付かない建築技術者については,新しくは表参道ヒルズの安藤忠雄,古くは国立西洋美術館のル・コルビジェなど,かなりの建築物について設計者の名前が知られている.
土木構造物に対する一つの価値観として,かかわった個人を明らかにしないという伝統がある.曽野綾子氏の「無名碑」に語られている思想であり,土木技術者のロマンでもある.しかし,情報化の今日,「誰が造ったか分からない」「造った人の顔が見えない」という状況は,土木に対してプラスに働いているだろうか.むしろ,胡散臭さを生み出す恐れはないか.さらに,造った者を表面に出さないということが,若い人々から「自分も将来このようなものを作る技術者となりたい」という気持ちにさせる機会を奪っているのではないか.また,この伝統の美名に隠れて,自らが担当した社会資本に対して持つべき土木技術者の良心や責任感,さらには市民への説明責任の行使が,個人・組織レベルで希薄になるというおそれはないか.
来たる土木学会全国大会(仙台)の会長特別講演会においては,社会資本に対する国民の評価と感覚が公正なものとなり,その基礎にある土木技術と土木技術者への認識が高まるよう,我々土木技術者がなすべき努力について提案し,学会内外の議論の端緒としたい.
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笠井修士論文
どんな情報を伝えたいか?(ヒアリング)
→どのような形式ならそれが伝わるか?(実験)
→伝えたい情報と知りたい情報とのギャップは?
推薦の言葉「土木情報の時代」
〜 こうした新しい土木技術や土木事業を支える主体は、いわゆる官という組織だけではなく、官民の連合である「公共」とう組織体が、新たな社会的役割を担うことになるでしょう。そのためには、情報を共有し、透明性を高め、場面に応じて関連する人々が、あたかも一つの組織に所属しているかのように動くことのできる情報基盤を作っておくことが重要になります。 〜
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仕事のモデル、情報のモデルからどのようなシステムが必要となるかを検討する。
行政においても(今回のトレーサビリティ)でおんなじ様なことしてみたいかも。
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収集・流通・蓄積・提供の各段階があるってことだけ認識
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CALS/ECや電子国土みたいなネットワーク上に散在しているデータを見えるようにし、個別の情報化関連施策や施策推進体制に依存しない自由な情報の検索や再利用を可能にする。
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情報化にかかわる標準化には、その実施レベルが3つあります。
紙文書と電子文書の特徴
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これからの時代は、葉が広い専門性と専門分野の深い知識を持ってプロジェクトの提案や説明ができることが必要になります。若いときから幅広い興味を持つ習慣をつけさせるために、技術情報だけでなく記事情報の発信も行い、関係者が役に立つと感じられる情報発信を行うことにしました。また、システムは、運営担当部署と工事現場のために存在しているのではなく、営業部門や管理部門にも役立つものとして構築しました。そして、運用については、各技術情報は情報発信者が管理し、管理専任者を置かなくてもいいこと、またポータルを充実させるために日常業務への負担にならないようにすることとしました。将来の効果として、入力情報がデータベース化されることにより、熟練者の退職によるノウハウの消滅を防ぐことも目指しています。
システム構築にあたっては、機能面で次のような環境を考慮しました。
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■ICタグ
電子タグ、RFID:Radio Frequency IDenfication、は、非接触でデータの送受信が可能であり、制約はあるものの相当なデータを記憶させることができる、さらに耐久性があり、バッテリーが不要です。このため、建築分野におけるICタグの活用用途は非常に広く、そのポテンシャルは高いものがあり大いに期待できることから新しい情報媒体として研究が行われています。
このような研究の一つにJASICが2004年から開催し、研究を続けている「ICタグの建設分野での活用に関する研究会」があります。
pp.201
■BMSデータベース
単なるデータストックではなく、橋梁の維持管理を適切に実施・計画するために必要となるデータの蓄積、検索、加工を容易に行える機能を有し、さらに蓄積されるデータの行こう利用(データマイニングの適用など)をも考慮した目的志向型のデータベースを開発しており、実際に利用を計画している地方自治体とともに共同開発を行っています。蓄積されるデータの有効利用に関する研究として、実際の橋梁管理機関のデータベースに蓄積されている情報から、データマイニングの手法を用いて、橋梁伸縮継手の損傷に関するルール型知識の獲得を試みています。
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